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被爆ピアノについて


絵本『ヒロシマのピアノ』(指田和子・文 坪谷令子・絵 文研出版刊)より引用


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昭和20年(1945年)8月6日、午前8時15分、アメリカ軍の原爆搭載機B29 エノラ・ゲイ号が投下した原子爆弾(原爆)は、広島の上空580mで炸裂しました。
爆発時の熱線と爆風は一瞬のうちに広島をつつみ、爆心地周辺の地上の温度は、3000〜4000度に達しました。
半径約2Km内の建物は、爆風でほとんどがなぎ倒され、焼き尽くされました。多くの人々が命をおとしました。
(原爆が炸裂したときの広島には、約35万の人々がいたと考えられています。原爆で亡くなった人の数は現在でも正確には分かっていませんが、その年12月末までに約14万人<誤差±1万人>が死亡したという広島市の推計があります。)
この中には、朝鮮、台湾や中国のひとびと、アメリカ兵捕虜もふくまれていました。
この本に登場する「ピアノ」は、当時、広島市内の千田町に住んでいた、ある少女の家で使われていたものです。爆心地からの距離は約1.8Km。この家も爆風で壊れ、焼け落ちてもおかしくない位置にあったといえますが、当時にはめずらしいコンクリートの頑丈なつくりだった事や、家の向きなどが幸いしたのか、屋根が飛び、天井が落ちるなどの被害はあったものの、なぎ倒されることはまぬがれたのでした。
ピアノも爆風で壁にたたきつけられ、傷だらけになりましたが、家がなんとかもちこたえたおかげで、こうして今に残ったのです。

矢川光則さん
広島市内でピアノ調律師をしています。矢川光則さんがこのピアノに出会ったのは、平成17年(2005年)7月のことです。
それまで、矢川さんは調律の仕事をするかたわら、こわれたり使われなくなったピアノをゆずりうけ、修理した後、ピアノのない施設に寄付したり外国に送る『ピアノのリサイクル活動』をしていました。それは『資源を守ろう、物を大事にしよう』といわれているこの時代にもかかわらず、まだ使えるピアノが、持ち主の事情で捨てられていく姿を数多くみてきたからでした。この活動のなかで、被爆したピアノにめぐりあったのです。
持ち主の女性からピアノの思いで話をきいたり、あらためて戦争や原爆の事を調べるうちに、それまで平和運動に関わりのなかった矢川さんの心に、変化があらわれます。やがてそれは『被爆したピアノの音色を多くの人に聞いてもらう事で、平和を考えるきっかけづくりができないだろうか』という思いに到達します。じつは、この背景には、数年前に亡くなった矢川さんの父親の存在がありました。
矢川さんの父親(矢川正行さん)は、昭和20年のあの日、爆心地から約800mの場所で被爆しました。崩れた建物のわずかなすきまにとじこめられたことで、九死に一生をえたのです。しかし戦後は体調をくずし、無理ができない体になりました。これは、原爆が炸裂した時に放出した放射線をあびたことが影響していると考えられました。原爆は一瞬にして多くの人々の命をうばうだけではなく、長い年月をかけて、さらにたくさんの人々の健康をもむしばんでいったのです。
このピアノが工房にやってきたとき、矢川さんは、子どものころに正行さんから聞いた被爆の体験談や、それを語るときの正行さんの苦しそうな表情がよみがえってきたといいます。『このピアノでコンサートを開こう』と。
『被爆ピアノ平和コンサート』の輪は、今、全国に広がりつつあります。南は沖縄から北は北海道まで、これまでに開かれたコンサートは200回をこえます。今年は100回をこえます。修学旅行で広島を訪れる子どもたちの為に、コンサートが企画される機会もふえました。
また、毎年8月6日には、広島平和記念資料館(広島市・平和記念公園内)東館の広場で『アオギリ平和コンサート』を開くようになりました。この場所には、千田町のピアノと同じように原爆をのりこえ、現在も青々した葉をしげらせているアオギリの木(被爆アオギリ)があります。平和を祈り、世界中からたくさんの人々が広島を訪れるこの日、この場所でコンサートをする事を矢川さんは今後も続けて行きたいと考えています。
『音楽は世界共通の言葉です。心をうるおすような被爆ピアノの音色を、もっともっと多くの人に聞いてもらいたい』矢川さんの夢はますますふくらみます。

絵本『ヒロシマのピアノ』(指田和子・文 坪谷令子・絵 文研出版刊)より引用


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